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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)713号 判決 1969年2月13日

上告人

尾崎邦夫

被上告人

吉原商品株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一から九まで、一一および一二について。

被上告人が昭和四一年八月九日上告人の了承のもとに従前の取引による売買差益金三四万四八〇〇円を委託証拠金に繰り入れた旨の原判決(その引用する第一審判決を含む以下同様とする。)の事実認定は、これに対応する挙示の証拠に照らして首肯でき、その間に所論の違法は認められない。

商品取引所法に基づいて定められた受託契約準則は、いわゆる普通契約約款であるから、当該取引所の商品市場における売買取引の委託については、当事者間に特別の約定のないかぎり、商品仲買人(昭和四二年法律九七号による同法の改正後は商品取引員、以下同様とする。)のみならず、委託者をも、その意思の如何にかかわらず、また、その知、不知を問わず、拘束するものと解すべきである。また、右受託契約準則が改正された場合には、改正後の受託契約準則は、改正後の右売買取引の委託については、右と同様に、委託者をも拘束するものと解すべきである。そして本件の昭和四一年四月一日の改正前の受託契約準則(甲第一号証の裏面)および右改正後の受託契約準則(以下単に「新準則」という。)(甲第二号証)も、右と同様であると解すべきである。されば、特別の約定について主張および立証のない本件にあつては、新準則実施後の売買取引について新準則が適用されるとした原判決の判断は、正当であつて、右判断には所論の違法はない。

なお、所論の違憲の主張は、その実質は、原判決のした上叙の事実認定または判断を非難するにすぎないところ、その理由のないことは、上来説示のとおりである。

原判決が当事者間に争のない事実および挙示の証拠によつて適法に認定した確定事実を要約すると、「上告人は、昭和四一年八月九日、被上告人に対し、一月限の小豆一〇枚を一俵金一万一二五〇円で売付(先物取引)を委託したが、その後小豆相場が高騰し、上告人の預託していた委託証拠金の不足を生じたので、被上告人は、同月一五日頃(正確には、一三月(土)か一五日(月)である。)、新準則八条三項に基づいて追証拠金の預託を請求したところ、上告人は、所定の日時(正確には一五日正午か一六日正午である。)までに右預託をしなかつたので、被上告人は、新準則一三条一項にに基づいて、同月一六日、上告人の委託建玉を上告人の計算において処分し、取引を手仕舞つた。」というのである。上告人は、論旨において、同月一三日委託証拠金の不足を生じたと主張するので、かりに、これを前提として、原判決の当否を判断する。新準則八条三項によれば、追証拠金の預託の請求は、商品仲買人の権利であつて、その義務ではないから、被上告人が同月一三日追証拠金の預託請求をしなかつたとしても、違法ではなく、したがつて、同日右追証拠金の預託の請求をしなかつたことを違法とする所論は、採るを得ない。また、新準則によれば、委託証拠金の不足を生じた事実だけで、商品仲買人が委託建玉の処分をする義務を負うものではないから、右義務を負うことを前提とする所論は、採るを得ない。さらに、新準則一三条一項によれば、商品仲買人は、その所定の日時に委託者が追証拠金を預託しなかつた場合において、右日時の経過とともに委託建玉を処分する義務を負うものではないから、かりに、右所定の日時が同日一五日正午であつたとしても、右原判決判示のように、被上告人が同月一六日上告人の委託建玉を上告人の計算において処分したのは、適法であつて、所論の違法はない。

されば、上叙の論旨は、採るを得ない。

同一〇について。

所論は、判決の結果に影響を及ぼすものではないから、採るを得ない。

同一三について。

所論の金六〇万円は、上告人において、その委託建玉が処分され取引の手仕舞後である昭和四一年八月二四日、被上告人に対し、委託証拠金として預託された旨の原判決の事実認定は、これに対応する挙示の証拠に照らして肯認できるから、原判決が右金六〇万円の一部を右取引によつて生じた売買差損金に充当した旨を判示したのは正当であつて、右判示には所論の違法はない。また、その余の所論は、判決の結果に影響を及ぼすものではない。

されば、論旨は、採るを得ない。

同一四について。

所論の違憲の主張は、その実質は、原判決のした事実認定または法令の解釈、判断もしくは適用が違法であると主張するに過ぎないところ、その理由のないことは、上叙説示のとおりである。

されば、論旨は、採るを得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

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